青空研究室

三ツ野陽介ブログ

「アメトーーク!」と僕らの時代

 「アメトーーク!」が好きで毎週見ている、という話をすると、「ああ、お笑いが好きなんですねー」と言われるのだが、別にそんなにお笑いが好きというわけではなく、ただ「アメトーーク!」という番組が好きなのである。


 そもそも最近はあまりテレビを見ておらず、「アメトーーク!」以外では、AKB関連グループが出ている番組か、有吉が出ている番組か、有吉とAKBが一緒に出ている番組ぐらいしか見ていない気がする。

 現に、1月30日放送の「アメトーーク!」では、昨年末に「THE MANZAI」で優勝し、現在飛ぶ鳥を落とす勢いであるというウーマンラッシュアワーの杉本という芸人が、破壊力抜群のトークで無双とも言える活躍を見せたわけだが、僕はこの芸人を今回初めて知った。


 この回の「アメトーーク!」は『ギスギスしてるけどキングコング同期芸人』と題して、文字通りお笑いコンビのキングコングと、ピース、NON STYLE平成ノブシコブシなど、その同期の芸人たちを集めた回だった。

 若い頃からテレビで華々しく活躍し、態度が高慢であるとして叩かれることも多いキングコングに対して、何年も遅れてブレイクを果たしたその同期の芸人達が、これまでの嫉妬や憎しみを倍返しでぶつけて笑いに昇華する、というのが基本的な構図だったかと思う。ウーマンラッシュアワーはその中では、一番遅れてブレイクした芸人ということになる。

 「アメトーーク!」でよくあるこういう話は、言わば芸人仲間のあいだの内輪話に過ぎず、テレビの前の視聴者にしてみれば知ったこっちゃないのだが、それなのにどうしてそんなに面白いのかというと、僕たちも多かれ少なかれ、芸人たちと似たような人生を歩んでいるからだと思う。

 お笑い業界は先輩後輩の上下関係が厳しい世界だそうで、「アメトーーク!」においてもそれを感じさせる場面が多々ある。しかし同時にそこは、年功序列など関係ない完全実力主義の世界でもあり、後輩に出世を追い越されるといったことが日常茶飯事で起こる。番組MCの雨上がり決死隊も、若い頃、ナインティナインに先を越された屈辱が出発点にある。

 売れない芸人として無職同然の生活を送りながらも、後輩が出演しているのが悔しくて家でテレビもつけられない、といった悲哀を、多くの芸人が「アメトーーク!」で語っている。

 僕たちは、芸人たちのそんな話に大笑いしながら、どこかで彼らに自分を重ね合わせ、自分の身の回りの現実をも笑い飛ばしている。そんなところがあるのかもしれない。

 とんねるずダウンタウンの時代から、お笑い番組では「楽屋ネタ」と呼ばれる、芸人や番組スタッフのあいだの内輪話で笑いをとる、ということがおこなわれてきた。でも、それはしばしば視聴者を白けさせるものだった。
 あの時代の「楽屋ネタ」は、ある種の特権階級だったテレビ業界の人間が、自分たちのあり様を見せびらかし、それを見た視聴者は華やかなテレビの世界に憧れる、という構図で成り立っていたと思う。

 しかし、とんねるずダウンタウンと異なり、「アメトーーク!」の芸人たちは、華やかな社交界を生きる貴族ではない。僕らと同じように、不況下の日本で成功を夢見る、うだつの上がらない平民なのである。彼らの語る内輪話は、ただの「楽屋ネタ」ではなく、テレビの前の視聴者も共感できる、ある種の普遍性をもった物語なのだ。

 ところで「アメトーーク!」を代表する人気企画に「家電芸人」というのがある。
 これは、異常に家電に詳しい家電オタクの芸人達が、最新の生活家電の驚くべき多機能ぶりを熱く語りまくるという企画なのだが、貧乏生活に耐えて芸能界で成功し、やっとお金を手に入れた芸人たちにとっての贅沢が、「すごいハイスペックな家電を買う」ということでしかないというのが、また面白い。バブル時代の芸人なら、もう少し違うお金の使い方をしたのではないだろうか。

 そして、「アメトーーク!」が生み出した最大のヒーローと言えば、有吉弘行である。周知の通り、かつてヒッチハイクで一世を風靡しながら、その後、無職同然の生活を送り辛酸をなめていた有吉は、「アメトーーク!」の「一発屋芸人」の回をきっかけに、起死回生の再ブレイクを果たした。

 今では、300万近くもある有吉のTwitterフォロワー数は、ソフトバンク孫正義を超えて、日本一であるそうだ。

 有吉は確かにトークが上手で面白いのだが、才能という点で言えば、「アメトーーク!」のもう一人のスターであるケンドーコバヤシが頭一つ抜けており、有吉は決して天才というわけではない。
 おそらく、有吉がこれだけ支持されているのは、彼が抜群に才能があって面白いから、と言うよりも、地獄の底から這い上がったという彼の生き様が支持されている、ということなのだと思う。

 世間から忘れ去られ、お日様の下を歩けないどん底の時代の有吉を、それでも支えてくれた先輩上島竜兵と「竜兵会」メンバーがいた。そんな仲間達との飲み会で磨いたトーク力で、とうとう世間に実力を認めさせた。
 まるでスポーツ選手を応援するファンのように、そういう有吉弘行のストーリーに、僕たちは自分を重ね合わせて、自分を励ましたりする。

 そして僕たちもいつか、あの調子に乗った「おしゃべりクソ野郎」に一泡吹かせてやりたい、なんて思っているわけなんだ。