青空研究室

三ツ野陽介ブログ

近代の悩み一覧表

 ふむ。

 明日から、とある大学で授業をするのだが、相手は体育大学の一年生で、どのぐらいの知識を前提に話をすればいいのか見当がつかない。ほぼ必修に近い、大教室の授業のようです。

今の社会は近代になってから生まれた

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 前も少し書いたように、科目名に「歴史」とあるので、歴史の授業をしなければならない。僕は歴史学者ではないので、歴史的な事件についてなどではなく、思想的なことについて講義しようと思い、いわゆる近代論、近代化論をやろうかなと。

 ここで言う近代論というのは、「いま我々が当たり前だと思っていることは、実は近代になってから生まれたもので、それ以前にはなかった」論のことである。人文科学の分野では、そういうタイプの議論が、特に20年ぐらい前まで流行っていたし、今でもよくある。

 例えば、「日本人」というのは近代になってから作られたものであり、それ以前には「日本人」なんていなかった。「薩摩人」や「長州人」がいただけだったのである、とか。そんな議論である。

 それで、「近代になってから生まれた悩み、問題」には、どういうものがあるのか、リストアップしてみた。

将来、何になればいいのか分からない
自分で結婚相手を探さなければいけない
家族関係が薄くなる
田舎が寂れて、都会に人があふれる
お金がない

時間がない
学校に行かなければいけない
勉強しなければいけない
不平等に怒りを感じる
金持ちが威張っている
会社や工場で働かなければならない
世界規模の戦争が起こる
戦争で国民全員が戦わなければならない
核兵器がある
環境問題が起きる
死んでも天国に行けない気がする
何のために生きてるのか分からない

 他にも色々ありそうだが、ちょっと解説してみると…。

 「将来、何になればいいのか分からない」「自分で結婚相手を探さなければいけない」などは、近代がもたらした自由によって生じた悩みである 。

 「お金がない」「金持ちが威張っている」などは、資本主義、貨幣経済が浸透したことによって生じた悩み。近代以前は、身分が高い人間が偉そうにしていたのであって、それは、金持ちが偉いというのとは少し違っただろうと。

 「家族関係が薄くなる」「田舎が寂れて、都会に人があふれる」「学校に行かなければいけない」「会社や工場で働かなければならない」などは、産業化、都市化によって生じた悩み。田舎で農民やってた頃は、考えなくてもよかった問題である。「時間がない」というのもそうだな。

 「世界規模の戦争が起こる」「戦争で国民全員が戦わなければならない」などは、近代に国民国家が生まれたことによって、生まれた問題。武士がチャンバラやってた頃の戦と、近代の戦争は全然違うよと。

 「死んでも天国に行けない気がする」「何のために生きてるのか分からない」というのは、近代になって宗教が信じられなくなったがゆえに生じた悩み。本当は、人が生まれて、死んでいくことに意味なんか無いのだが、それをあれこれ意味づけてくれるのが、宗教やご先祖様であったわけで。

 近代化すること、大人になること

 こうやって書き出してみると、「近代化する」というのは、一人の人間が「大人になる」ことによく似ている。

 自由というものが、近代化によってもたらされるものであると同時に、また、一人の人間が大人になることによってももたらされるものであるからだろう。親をはじめとする周りの環境によって決められていたことを、自分で考えなければならなくなるから、色々と迷い、悩むわけで(例えば、明治時代の文学のテーマが、まさにそれだった)。

 そして、今さら近代以前の社会に戻れないように、大人が子供に戻ることもできないのである。