青空研究室

三ツ野陽介ブログ

韓国の新聞を読んだら韓国が分かるか〜黒田勝弘『韓国 反日感情の正体』

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 右派系新聞である産経の記者で、韓国についてあれこれ本を書いているジャーナリストなんて「どうせ嫌韓をバラ播いているんだろ」と、わりとガチに左翼だったかつての僕なら手に取ろうともしなかったはずだが、いまだ掲げ続ける左翼の看板もボロボロになってしまった今の僕は、産経新聞記者の本もちゃんと読むのである。

  で、一九七〇年代から韓国を見つめる韓国ウォッチャーの第一人者として名高い産経新聞黒田勝弘さんは、少なくとも、昨日のエントリーで言及した『悪韓論』『呆韓論』の著者である室谷克実氏とは格が違うと、僕は考えている(朴槿恵大統領就任で日韓関係良くなるぞと大喜びの記事をお書きになったこともあったけど)。

 黒田さんの本は何冊か読んだが、韓国に対して、その反日ナショナリズムを批判してはいるものの、「韓国の反日に対抗して、日本人ももっと愛国心を持つべき」などといった主張は、僕が見た範囲ではおこなっておらず、日本のナショナリズムにも韓国のナショナリズムにも反対という僕の立場からすれば、特に受け入れがたい主張にお目にかかることは少ない。

 『悪韓論』などの本が書店に並んでいる昨年のタイミングで、黒田さんが出したのは『韓国 反日感情の正体』という本で、この本のキャッチコピーは「昼は反日、夜は親日」というものだった。

 「昼は反日、夜は親日」とは、韓国人は昼間のパブリックな場所では、反日的な意見を述べたりするが、夜のプライベートな場、例えばお酒の場などでは、とても親日的だ、という黒田さんの韓国での生活実感を表したものだ。

 この本のまえがきは面白いので全文引用したいぐらいだが、黒田さんはこんなふうに書いている。

韓国に長く滞在したり居住する日本人の多くが言うことだが「韓国でテレビや新聞(近年はこれにネットも加わるが)を見なければこんなに楽しい国はないよねえ」という話がある。

 これは何を意味するかというと、韓国社会では日常的には反日を感じさせられることは実はほとんどないということだ。メディアにあふれる不愉快な反日さえ知らなければ、日常的には反日は無い(?)に等しいのだ。 

 これは二年間、韓国で過ごした僕の生活実感と同じだ。僕も韓国の親切な学生達に囲まれながら、自室にひとり戻るとネットで反日記事などを見てため息をついていましたが……。 黒田さんはさらに言う。

韓国ではメディアは言論界といわれ、そこに従事する記者(知識人!)たちは言論人といわれる。だからメディアは単に情報を伝達する報道機関ではなく、それ以上に物事を「論」じる媒体なのだ。論とは「こうあるべき」ということを主張することである。したがって韓国のメディアは本来、客観より主観を重視してきたといっていい。

 それがメディアの役割と信じられているため、韓国のメディアそして記者たちはいつも論じ、主張している。民を諭し善導するというのは啓蒙的で教育的だからしばしば扇動的になる。結果的にメディアは反日を教育し扇動していることになる。

  中央日報朝鮮日報などの日本語版サイトを読み、その記事があまりにも偏向的であることにビックリして、これは日本の「マスゴミ」の酷さの比ではない、と日本の読者が感じてしまう理由も、このあたりにあるのだろう。そういう扇動的な韓国メディアの反日記事を読んで憤激しているのが、日本のネット右翼ということになる。

 しかし、黒田さんの分析を踏まえれば、「日本のメディアが伝えてるんじゃなく、韓国の新聞が言っているのを直接見てるんだから、これがまぎれもない韓国の反日の実態なんだろう」と考えるのではなく、「韓国の新聞が反日を誇張し、歪んだイメージを日本に伝えている」という可能性も考えることができるだろう。

 例えば、韓流スターの笑顔に満ちた親日的な姿勢について、ネットの嫌韓派はすぐに「本当は反日なのにそれを隠している」と考えるわけである。確かに、もし韓流スターに政治的な質問をしたら反日的な発言をするかもしれないし、「あの韓流タレントは実は反日だ」なんていうことが、ファンのあいだで囁かれることもあるが、もしそうだったとしても、彼らの親日的な姿勢もまたもう一つの本当の姿なのである。

  「親日的な韓国人と反日的な韓国人がいる」と言うよりは、「昼は反日、夜は親日」という言い方のほうが、より上手な言い方なのだろうと思う。そして、中央日報などに露出しているのは、韓国の昼の部分なのである。

 K-POP好きの女の子なんかを、嫌韓男が「韓国の反日の実態も知らないで…」などと馬鹿にするわけだが、本当に分かっていないのがどちらなのかは、いちがいには言えない。

 

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(3月22日追記)

この記事は前々日のエントリーからの続きでもありました。

嫌韓の情報ソースは韓国の新聞の日本語版サイトという皮肉 - 青空研究室

また、これまでに書いた韓国関連エントリーのまとめリンクも作りました。↓

【速報】竹島は二つあった!などソウルに2年住んでた僕の韓国関連エントリーまとめ - 青空研究室