こんな僕でも訳者になれた
『自由と行為の哲学』について
こんな僕にも、研究者らしく、訳書というものがあった。
『自由と行為の哲学』という本がそれである。もう四年前になるのか。
- 作者: P.F.ストローソン,ピーター・ヴァンインワーゲン,ドナルドデイヴィドソン,マイケルブラットマン,G.E.M.アンスコム,ハリー・G.フランクファート,門脇俊介,野矢茂樹,P.F. Strawson,G.E.M. Anscombe,Harry G. Frankfurt,Donald Davidson,Peter van Inwagen,Michael Bratman,法野谷俊哉,早川正祐,河島一郎,竹内聖一,三ツ野陽介,星川道人,近藤智彦,小池翔一
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2010/08
- メディア: 単行本
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訳書と言っても、八人の若手研究者が寄ってたかって翻訳した「共訳」であったし、訳文作りには監修の先生もおおいに活躍なさった。
さて、これはどんな本なのか。
哲学書と言うと、『存在となんとか』のような題名の分厚くて重たい本が、ドスンと鎮座している印象があるけれど、それは「大陸系哲学」とも呼ばれるドイツやフランスの哲学のイメージで、現代の英米哲学では20〜30ページぐらいの短い論文が、哲学界に大きなインパクトを与えるということがよくある。そういう重要論文に対して、数十年にわたって様々な哲学者が言及し、議論が積み上がっていく。そんな伝統が、英語圏の哲学にはあるのだ。
この『自由と行為の哲学』は、そのような重要論文を集めたアンソロジーである。日本で未訳だった論文も多く、関連テーマについてのブックガイドや、野矢茂樹先生による分かりやすい解説も付いている、たいへんお得な本である。
哲学科で卒業論文を書かなければならないお子様をお持ちのご家庭などには、とくにお薦めしたい。
もちろん、そんなご家庭は少ないだろうし、哲学の翻訳書がたくさん売れるとは思わなかったけれど、基礎文献集であることは間違いないので、ずっと読まれつづける密かなロングセラーになるんじゃないかと思っていた。しかし、現在Amazonでは品切れで再版はかかっていないようだ。
収録されている八本の論文のうち、実は僕の担当したものが一番短い。しかし、重要性は他に劣らず、その業界ではよく言及されている論文である。ハリー・G・フランクファートの「選択可能性と道徳的責任」という論文だ。
山形浩生訳『ウンコな議論』
フランクファートには本当は単著もあるのだが、邦訳されていない。しかし日本語では、山形浩生さんが『ウンコな議論』という風変わりな翻訳書を作って、フランクファートの紹介を行っている。
- 作者: ハリー・G・フランクファート,山形浩生
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/01/11
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これは、山形浩生さんが「ウンコな議論」という邦題をつけたフランクファートのエッセイが50ページぐらいあって、さらに50ページぐらい山形浩生さんが解説を書いている、あわせて100ページぐらいの軽い本である。表紙には、訳者の名前のほうが大きく書いてある。
こちらに収録されているフランクファートの文章そのものは哲学論文ではなく、世の中にはウンコな議論や屁理屈が溢れていますね、というエッセイなのだが、山形浩生さんの解説のほうには、フランクファートの哲学についての紹介があり、僕の訳した道徳責任の論文についても解説されている。
こちらは品切れではないみたいですね……結構売れたようで。