青空研究室

三ツ野陽介ブログ

良い小論文、悪い小論文(2)

 昨日の記事(良い小論文、悪い小論文(1))では、小論文対策の受験参考書には、なかなか良いことが書いてあるよと紹介したうえで、『樋口裕一の小論文トレーニング』という本の中から宿題を出したのですが、まずはその答え合わせから行きましょうか。

樋口裕一の小論文トレーニング―書かずに解ける新方式でいつでもどこでもパワーアップ! (大学受験合格請負シリーズ)

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例題1

「コンピュータについて、あなたの思うところを述べよ」という小論文の課題が出された。つぎのA〜Cは、ある三人の答案から、最後の結論部分だけを抜き出したものである。小論文としてもっともふさわしい結論はどれか。一つ選び、理由も答えよ。

 

A コンピュータのおかげで、私たちの生活は快適になった。コンピュータをよりよく使って社会に貢献することが、私たち若い世代に課せられた使命だ。

 

B 驚異的スピードで進化するコンピュータ。豊かな感情を持つ人口知能の完成もそう遠い日のことではない。そのとき世界は、人間は、どう変貌しているのだろうか。

 

C コンピュータがもっと発達すると、人間性はもっと失われてしまうのだ。よって、コンピュータは人間を幸福にせずに、逆に不幸にする機械だ。

  さて、樋口裕一さんによれば、「正解はC」である。

 なぜなら、Aが平凡な「良い子の作文」であり、Bが「主張のないエッセイ」であるのに対して、Cはヘタクソな文章でヘンな意見を述べているとしても、「ある命題を立て、それに対して「イエスかノーか」」をしっかり答えているからである。

 何かの命題に対して「イエスかノーか」を答えているかどうか。それが小論文と作文の違いなのだと樋口裕一さんは言う。「Cは明確にノーと言っている。何に対してかというと、「コンピュータは人間を幸福にするか」という命題に対してだ」。

「コンピュータは人間を幸福にするか」という命題など設問に書かれていないじゃないか、という疑問も当然出てこよう。(……)小論文の試験でこういう課題が出たときには、自分で命題を立て、それについての是非を論じていい。(……)「いい小論文」を書くには、「いい命題」を立てることが必要だ。

  こういうのは、小論文の受験参考書に限らず、大学生以上向けの「論文の書き方」本にも、必ず書いてあるようなアドバイスなのだろう。しかし、僕はその種の本を馬鹿にしていたところもあり、大学院で論文を書いたりしていながら、こういう基本をあまり意識したことがなかった。

 他人の論文を見ていても、「フッサール現象学的還元について」とか、「夏目漱石の後期三部作について」とかタイトルに書いてあったりして、なにやら難しそうなことについて、なんとなく説明したら論文になんないかなあ、という曖昧なスタンスで書かれたものが案外多い。その論文における問いは何で、答えは何なのか、ということが明確でないのだ。

炎上するブログの書き方

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 ブログの文章論として考えると、「ある命題を立て、それに対して「イエスかノーか」を答える」というのは、注目されやすい、あるいは、炎上しやすいブログの書き方と言える。

 この場合の命題は、議論が分かれるようなものがいいだろう。そして、その問題に対して、明確な立場を取るのである。

 例えば、「女子力とは何か」よりも、「女子力は必要か」という問いのほうがいい。「〜とは何か」だと、それについて何となく説明して終わってしまいがちである(実は、哲学の論文では、この「〜とは何か」っていうのがすごく多いのだが)。二択で問題を立てるのが基本だ。

 そして、「女が今の時代をサバイブするには女子力を身につけるしかない」と言うにせよ、「女子力なんてクソ食らえである」と言うにせよ、ハッキリとした立場を取ってみる。明確な主張がなければ、それを読んだ人は反論することもできないのである。

 逆に、「女子力が必要かどうかは、人によって事情が異なるであろうなあ」とか、「時代によって、女性の生き方は移り変わっていくのであるなあ」などという曖昧な書き方は、炎上は避けられるかもしれないが、面白くない作文ということになる(僕の場合、どうしてもそういう書き方をしてしまうんですけどね)。

 藤原和博さんの試み

 同じような話になるが、民間出身の中学校校長としての活動で有名な藤原和博さんが、『200字意見文トレーニング』という小中学生向けの作文のテキストを出していて、僕はこの本も、韓国で日本語作文の授業をしたときに、教材として使っていた。

 藤原和博さんもやはり、ものを考えるためには、イエスかノーかという問題を立て、それに対して理由付けしながら立場を取る、という方法が良いとして、そのように書かれた作文を「意見文」と名付けている。そういう意見文を200字以内で書いてみよう、というのがこの本だ。

藤原流200字意見文トレーニング―未来を生き抜くための「柔らかアタマ」をつくろう!!

藤原流200字意見文トレーニング―未来を生き抜くための「柔らかアタマ」をつくろう!!

 

  この『200字意見文トレーニング』には、

「中学生はもう大人だ」という意見があります。あなたはこの意見に賛成ですか、反対ですか。

  とか、

「友達はできるだけ多い方がいい」という人と、「少なくても気が合う人がいればいい」という人がいます。あなたはどちらの立場ですか。

 のような問いがたくさん載っていて、色んな回答例もある。

 この種の問題は、いずれかが正しいとは一概には言えないと思うのだが、そういう「正解のない問題」に対して、あえて明確な立場を取り、その立場を理由づけてみる。「自分の頭で考える」とは、そういうことなのである。

 まあ、一概には言えないかもしれないけどね。