ありのままでモテない勇気と『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見 一郎、古賀 史健著)
アドラー心理学では、他者から承認を求めることを否定します。(……)他者の期待など、満たす必要はないのです。(……)他者からの承認を求め、他者からの評価ばかりを気にしていると、最終的には他者の人生を生きることになります。(……)すなわち、「自由とは、他者から嫌われることである」と。(……)他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない。
最近、と言うか、ピークは少し前だったのかもしれないけれど、『嫌われる勇気』という本がベストセラーになっている。僕が読んだのも少し前だったのだが、昨日、一昨日のエントリーに書いたことと関係がありそうなので、この本について少し書いてみる。
「自由とは他者から嫌われることである」との言葉が帯にあるが、実際に中身を読んでみると、それはこの本のおもな主張の一つではあるけれど、全編そういうテーマについて書かれているわけではない。帯にこのフレーズを取り出して、『嫌われる勇気』というタイトルをつけた人(編集者?)が、商才があったということだろう。
冒頭の引用は、「自由とは他者から嫌われることである」との主張が展開されている箇所を、本文から抜き出したものである。
なぜこの本が売れたのか、という観点から考えてみると、『アナと雪の女王』のヒットと共通するものがありそうだ。
つまり、他者からの承認、評価を気にかけず、嫌われてもいいから、ありのままの自分で自由に生きたい、というのが、今の時代に広く共有されている欲求なのである。
続きを読む「こじらせ」と「俺萌え」〜本田透『喪男の哲学史』
私は思います。日夜想像します。人の視線や、世間の常識や、善悪の基準すら関係のない自由な世界で、どんなものにもとらわれず、好きな装いをし、気持ち良く深い呼吸をしている自分を。(『女の子よ銃を取れ』pp.6-7)
昨日のエントリーで紹介した雨宮まみさんの本で、上のような文章を読んだとき、この感覚は「俺萌え」に近いな、と思った。
「俺萌え」というのは、本田透さんが『喪男の哲学史』において、ニーチェの「超人」思想を解説するときに用いた言葉である。
本田透さんは、十年ほど前の「電車男ブーム」のとき、オタクも恋愛すべしという風潮に異を唱え、二次元世界の優位を説き『電波男』などの著作を書いて一部で話題になった人である。
男がオタク趣味に走るせいで女が結婚できないという『負け犬の遠吠え』の酒井順子さんの主張に対して、当時、ケンカを売ったりもしていたのではなかったかな、確か。
続きを読む「美しくなる」とは「自由になる」こと?〜雨宮まみ『女の子よ銃を取れ』
雨宮まみさんという物書きがいて、自伝的エッセイ集『女子をこじらせて』が、たいそう面白かったので、その次に出た『ずっと独身でいるつもり?』も読み、いちばん最近出た『女の子よ銃を取れ』という本も読んだのだが。
僕もやはり、独身三〇代女子の心中には興味があるわけで、『ずっと独身でいるつもり?』はなかなか面白く読めたのだが、今回の『女の子よ銃を取れ』はファッションの話が中心で、さすがに女性読者向けの本だったかな、という感想は持った。
まあしかし、確かに男子目線で一番面白いのは、女子をこじらせてAVライターとして開花していく半生を綴った一冊目の『女子をこじらせて』なのだが、今日は読んだばかりの『女の子よ銃を取れ』について書く。
雨宮まみさんという人は、単純にフェミニストとして括れる人ではないのだろうが、やはり男としては、何だか自分が責められているような気分にさせられる書き手ではある。
続きを読む[漫画感想文]『俺はまだ本気出してないだけ』(青野春秋)
以前、最初の数巻を読んだことがあり、映画化されたものをDVDで見たこともある『俺はまだ本気出してないだけ』(青野春秋)が、全五巻でとっくに完結していることに今ごろ気づいた(映画化の時点で完結してた)ので、通して読んでみた。
しがない四十男のシズオ(バツイチ、高校生の娘有り)が、突然、素人同然の画力にもかかわらず漫画家を目指すと言って会社を辞め、周囲を呆れさせながら、ハンバーガー屋でアルバイトなどしつつ、漫画を書きつづける話である。
人間には、すでにおもてに現れている能力のほかに、「本気を出せば」発揮できる潜在能力が備わっていると思われており、それは、その人が過去に結果として残したもの、顕在化させたものよりも、高く見積もられる。
続きを読む